渇きと断章

「ふたしかな私」をとらえて詩のような文にしたい

ことばなんて

ことばなんてなければよかった。人がそれを発した瞬間にまちがいが生まれてしまう。ああ、まさにこのように書かれた瞬間から。
ことばは暗闇を走るひとすじのいかずちのようなものだ。ところが正しさは大気の中に入り混じり、幾度いかずちを浴びせても全体を照らし出すことができない。

正しさは無言のうちにある。

ある空気の澄みわたった晴れの日の早朝、キッチンのすり硝子の向こうに太陽の光が注がれているのを見た。わずかに風のある日で、庭の緑の草が光を浴びながらそよそよとゆれている。すり硝子ごしにこのようなおだやかな世界を見たとき、もうこれで終わりでいいじゃないかと思った。

円満な完成!(「ウダーナヴァルガ」冒頭)

これ以上いったい何を求めることがあるだろう。しかし、私たちはこれだけで生きていくことができない宿命を負う存在でもある。